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東京高等裁判所 昭和33年(ネ)1128号 判決

理由

被控訴人の時効の抗弁について判断するのに、本件各手形の振出人の債務の消滅時効の期間は昭和三十二年三月十日を以て満了すべきものであること、控訴人の手形呈示による時効中断の(一)の再抗弁の理由のないものと判断すべきことは原判決理由(末尾添付)の示すとおりであるから、これをここに引用する。

次に、控訴人は右債務の消滅時効期間の最終日である昭和三十二年三月十日は日曜日に当つていたので、(イ)手形法第七十二条第二項により、(ロ)また仮りに右手形法の規定の適用がないとすれば、民法第百四十二条により、時効期間は一日伸長される旨主張するので判断するのに、右昭和三十二年三月十日が日曜日であつたことは明らかである。そこで先ず、手形法第七十二条第二項の適用があるかどうかの点について考える。手形法第七十二条第二項の規定は同条第一項の行為についてのみ適用せらるべきことは明文上明らかであるところ、満期到来後の手形金の請求は同条第一項前段の請求に当らないことは勿論、同項後段の手形に関する他の行為というに当らないものと解するのを相当とするから、手形の償還請求権の消滅時効の期間の計算については同条によらず、期間に関する通則的規定である民法第百四十二条を適用すべきものであるから、この点に関する控訴人の再抗弁は理由がない。

次に、控訴人の右(ロ)の主張について判断するのに、控訴人主張のとおり、一般に学校においては日曜その他の休日には当直用務のような特殊事項を除いて通常の業務を行わない慣習のあることは当裁判所に顕著な事実である。証拠によれば、被控訴人は学校法人であつて、東京都大田区大森四丁目に本部があり、右本部において病院を経営しているので、日曜・祭日といえども、入院、治療その他これに伴う事務が行われている事実を認めることができるけれども、右にいう日曜・祭日に行われる事務は本部の附属病院が医療機関の義務としてなす診療行為と入・退院およびこれに附随する極めて限られた事務と解するのを相当とするが故に、右事実は前記認定の妨げとなすに足らず、また極めて稀に被控訴人が日曜日に少額の金銭を支払つた事実があつたとしても、これを以て通常の業務を行うものと解することができないことはいうまでもないところである。従つて、本件の場合が一般慣習の例外をなすものとは到底考えられない。

してみると、本件時効完成の日は民法第百四十二条により一日伸長せられ、昭和三十二年三月十一日となつたものというべく、控訴人が同日本訴を提起したことは本件記録に徴し明らかであるから、これによつて右時効は中断されたものといわなければならない。

以上のとおりであるから、控訴人の右(ロ)の再抗弁は理由があり、被控訴人の時効の抗弁は失当として排斥のほかなく、被控訴人は控訴人に対し、金二百万円及びこれに対する支払済までの遅延損害金を支払うべき義務あるものというべく、これが支払を求める控訴人の請求は正当としてこれを認容すべきである。よつて右と反対の趣旨に出でた原判決は失当であるので、これを取り消す。

〈以下省略〉

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